テーマ・地域型基金
【助成レポート】教育版 Minecraft を活用したプログラミング体験会/船橋プログラミング部
第1回・2回 寄付キャンペーンでいただいたご寄付をもとにした助成「子どもの今と未来を支える基金/経済格差を『体験の格差』につなげないための助成プログラム」の採択団体3団体は、現在、子どもたちの体験の格差の解消を目指して活動しています。

採択団体のひとつ「船橋プログラミング部」が主催する〈教育版 Minecraft を活用したプログラミング体験会〉は今年の7月から毎月第三日曜日、船橋市内の習志野台と高根台で交互に開催しています。伺った9月は高根台開催の回。会場の高根木戸東町会館で、同団体の代表・増澤智将さん、メンバーの矢嶋貴宜さん、本郷卓男さんにお話しを伺いました。

左から増澤さん、矢嶋さん、本郷さん。仕事や趣味を通じてパソコン・プログラミングに精通しているスペシャリストの3人です。
教育版Minecraftとは
2017年の発足以来、小学生~高校生を対象に船橋市内で無料でプログラミング体験が出来る場(CoderDojo)を提供してきた同団体。2022年にはここに集う子どもたちがチームを作って「Minecraftカップ全国大会」に出場し、ヤング部門で優秀賞を受賞しました。
Minecraftは、スウェーデンで開発された世界中で人気のビデオゲームです。プレイヤーはブロックでできた3Dの広大な世界を自由に探索して資源を集めたり、建物を建てたりすることができます。パソコンやNintendoSwitch、スマホでプレイしたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一方、採択事業〈教育版 Minecraft を活用したプログラミング体験会〉(以下、体験会)で使われている教育版マインクラフトは、児童・生徒を対象に教育現場で活用することを目的に設計・開発されたもので、算数や数学・歴史・アート・社会課題などをゲームを通して学ぶことができます。プログラミングもそのひとつ。小学校低学年のお子さんでも楽しく遊びながらプログラミングを学ぶことができるのは、教育版Minecraftの特徴のひとつです。
「子どもたちが協力しあいながら何かを成し遂げるには教育版Minecraftはとても良い教材だと全国大会での受賞を機にあらためて感じた」という増澤さん。この教育版Minecraftの裾野を広げたいと「子どもの今と未来を支える基金」にチャレンジしてくれました。助成金によって、初めて教育版Minecraftに触れる子も参加しやすいよう初心者向けの時間帯を増設。さらに、パソコンを持っていない子も気兼ねなく参加できるよう新しいパソコンを購入しました。また、子ども食堂やフリースクール、近隣の小学校など、これまでつながることのできなかった子どもたちに向けた周知にも取り組んでいます。この日集まった小学生から中学生の7人は、いずれも本事業をきっかけにつながった子どもたちです。

子どもたちは、会場に設置されたスクリーンとインストラクターの矢嶋さんの説明を頼りに、バーチャル空間の中でプログラミングを駆使して「エージェント」と呼ばれる人型ロボットを部屋から部屋へ移動させなければなりません。キーボードに初めて触れる子もいたため、進み具合はそれぞれでしたが、早くクリアできた子は手間取っている子を助けたり、子ども同士で協力し合って問題を解決したり…。気づけば、参加者全員がこの日の目標を達成していました。
「私たちが子どもの頃は、近所に必ず面倒見の良いガキ大将がいましたよね。学校や学年が異なる子どもたちが、教え合いながら仲良くなる。ここでも私たち大人はほんの少しのサポートをするだけで、子どもたちは自然と助け合う文化を作っていく。そんな場所は、今ではあまり見られないように思います。教育版Minecraftは単にプログラミングを学ぶだけでなく、協力し合いながら問題解決力を養えるとても良い教材だと感じています」と増澤さんはいいます。

技術的な問題は大人がサポート。

「ここはこうやるといいよ!」年長の子が年少の子に操作を教えることも。
高根台会場では1時間半ほどの体験会が終わると、地域の子ども食堂が提供するお昼ごはんといううれしいおまけが付いてきます。この日のお昼ごはんは3種類の手作りのパン。子どもたちは子ども食堂のボランティアさんに「ありがとう」「いただきます」と言いながら好きなパンを選んでいました。
午後は船橋プログラミング部の元々の活動であるCoderDojoの時間ですが、体験会に参加した子どもたちも残ってプログラミングを続けることができます。体験会に参加した全員が残る中、高校生や大学生、地域の大人も加わり、自治会館の大広間は次第ににぎやかな多世代交流の居場所に変化していきました。
高根台で子ども食堂を運営するNPO法人想創(モクナ)のみなさんとこの日のパン。
助成金の使途と課題
同団体の活動にはパソコンが欠かせません。今回の助成金により、子どもたちが使用するための新品パソコン2台を購入することができましたが、これらも使用可能な期間は最長で約5年とされています。また、寄贈品やメンバーの持ち出しで購入した中古パソコンも活用していますが、中古品の寿命は新品よりも短く、約3年程度です。さらに来年にはWindows 10のサポートが終了するため、いくつかのパソコンは近い将来、使用できなくなります。
活動を続けるためには、新品よりも格段に安価な中古パソコンを購入する必要があり、今回の助成金でも中古パソコンを3台購入することを検討しましたが、中古品の場合、見積書を作成しても購入時には売り切れてしまうリスクがあるため、助成金での購入を断念したそうです(「子どもの今と未来を支える基金」では、5万円以上の物品購入に見積書が必要です)。また、Minecraftの使用料や会場費など、活動を支えるために必要な細かな出費も避けられません。
資金や場所の問題など、7年間の活動の中では「もう続けられないかも」と感じることもあったそうですが、その都度、協力者や助成金・補助金に支えられ、活動を続けることができました。今後も同団体は、子どもたちへの無料の機会提供を途切れさせることなく、細く長く活動を続けていきたいという想いがありますが、そのためにもメンバーの持ち出しで運営する現在のスタイルは改善したいと考えています。

「無料」で機会を提供する意義
県内の子どもを対象としたプログラミング教室の料金を調べると、月額1万円から3万円と決して安くないことがわかります。物価の高騰が続く中、この分野においても格差が広がっていることは想像に難くありません。また、自宅にパソコンがあっても、子どもにプログラミングを教えられるご家庭は多くはないでしょう。
令和2年度「体験活動等を通じた青少年自立支援プロジェクト」 青少年の体験活動の推進に関する調査研究では「小学生の頃に体験活動(自然体験、社会体験、文化的体験)や読書、お手伝いを多くしていた子どもは、その後、高校生の時に自尊感情や外向性、精神的な回復力といった項目の得点が高くなる傾向が見られること」「小学校の時に体験活動を十分に行っていると、家庭の経済状況に関わらず良い影響が見られること」が明らかになりました。
実際に、同団体も7年間に及ぶ活動の中で、プログラミングを通して将来の可能性を広げていった子どもたちを多数見ています。増澤さんは熱心にパソコンに向き合う子どもたちを見ながら「足が速い、野球が上手い子たちがヒーローになれるように、Minecraftが上手い子もヒーローになれるといいですよね。そしていずれはここから『リアル』の世界につながって活躍してくれたらうれしい」と、子どもたちへの想いを話してくれました。
<教育版 Minecraft を活用したプログラミング体験会>。それは、地域の子どもたちに無料でプログラミングを体験する機会を提供するだけではなく、さまざまな人との関りや、その関りの中でしか得られない学びと成長の機会も提供しているように感じました。同団体の専門性の高さとボランタリーな精神、そして地域の温かなまなざしに支えられた子どもたちが、いつか自分の好きな世界で「ヒーロー」として輝く未来を願うとともに、こうした地域活動を支え続けることのできるコミュニティ財団でありたいと、想いを新たにする機会となりました。
<教育版 Minecraft を活用したプログラミング体験会>
「子どもの今と未来を支える基金」経済格差を『体験の格差』につなげないための助成プログラム/事業実施期間:2024年7月~2025年3月
助成金額:200,000円
実施地域:船橋市内
実施団体:船橋プログラミング部
すべての子どもが未来に夢と希望を持てる社会に
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