【企業訪問レポート】一人ひとりの人生にまっ直ぐ寄り添い、「とりあえずやってみる」を積み重ねて得た学び(株式会社エーゼットファクトリー)

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【企業訪問レポート】一人ひとりの人生にまっ直ぐ寄り添い、「とりあえずやってみる」を積み重ねて得た学び(株式会社エーゼットファクトリー)

2026.05.22
助成レポート

「若年就労困難者のための包括的就労支援事業」では、さまざまな事情から働くことに困難を抱える若者に対し、就労支援団体が市民や企業と協力しながら「働く」を支える仕組みを地域に作ることを目指しています。
就労支援というと、支援や福祉の専門機関の取り組みを中心に語られることが多いですが、地域には企業やお店が独自の工夫によって、多様な働き方を生み出している実践もあります。
 
今回訪れたのは、株式会社エーゼットファクトリー(千葉県千葉市)。
ここでは、代表取締役の小野田直さんを中心に、働きづらさを抱えた若者を仲間として受け入れ、挑戦と学びを繰り返しながら共に働く雇用が実践されています。
(プログラムオフィサー 塚田輝)

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「ひきこもり状態だった若者が、『自分でも働けるんだ』とわかった瞬間に目がきらりと光ったんです。その姿を見ていたら、自分がやらなきゃいけないと思いました」

インタビューの冒頭、小野田さんが語ったこの言葉には、小野田さん自身を突き動かしてきた原動力が表されているように感じました。

株式会社エーゼットファクトリーは、千葉県千葉市の郊外、落ち着いた地域にある自動車整備会社です。介護・福祉車輌の販売や整備を主軸に行っており、現在は正社員やパート、実習生を含め13名が働いています。
自動車を整備する工場と事務所が隣り合っており、その日も工場の方では従業員の方々が数台の車を整備されていました。

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普段のお仕事の様子

事務所に足を踏み入れると、そこはまるで雑貨屋さんのような空間。小野田さんが数年かけて集めたというインテリアや観葉植物が並び、遊び心に溢れています。ゆとりがあって心がワクワクするような場所。ここにも、同社のアットホームな社風が現れているようです。

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どこを見ても楽しくなる事務所でインタビューをさせていただきました

「その人にしかできないこと」を見出す

介護・福祉車輌を扱う仕事柄、小野田さんは障がいを持つ多くのお客さまと接してきました。その中で、ハンディキャップを強みに変えて生きる人たちとの出会いがあり、自然な流れで障がい者雇用に取り組みはじめたといいます。

医療や福祉などのバリアフリーな施設であれば、車椅子のスタッフでも営業職として入っていくことができる、という柔軟な発想から、ハローワークに相談してみたこともあったといいます。しかし、車椅子に限定した募集は障害者差別解消法に当たる、と断られたといいます。

「車椅子の若者が福祉車輌を売りに福祉施設へ営業に行く。彼が『こんにちは!』と明るく挨拶するだけで、僕が行くよりずっと説得力があるし、お客さまにも喜ばれる。彼は立派な営業のプロになれるんです」
 
〈できないこと〉に目を向けるのではなく、〈その人にしかできないこと〉を見出す。
小野田さんが実践しているのは、単なる制度としての雇用ではなく、個性を活かした「適材適所」の追求でした。

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脚に障がいのある方が運転するための機器を見せていただきました

あらゆる経験を学びに変える「TRY & LEARN」

しかし、これまでの道のりは決して順風満帆なものではありませんでした。

この10年、同社には身体的な障がいに限らず、さまざまな困難を抱えた若者がやってきました。その多くは障がい者枠ではなく一般応募で、自分の困り事を伏せてやってくることも少なくありませんでした。

小野田さんは、違和感があれば面接の段階からまっ直ぐに向き合います。「何か精神的な病を抱えているか」「一度病院で受診してみてはどうか」と、一歩踏み込んだ提案をしたこともあるそうです。
普通の社長なら、少し行き過ぎたお節介にも思えるアプローチかもしれません。しかし、何も聞かずに断るのでも、懸念がありながら雇用するのでもなく、その人の状況を慮って向き合う姿勢には「相手をよく知った状態で受け入れたい」という小野田さんの誠実さが現れているように感じました。

雇用を繰り返す中で、多くの壁にもぶつかってきました。
・支援機関による定着支援の制度を活用できていれば、もっと良い形で配慮ができたのではないか…
・服薬による制限がある人も働けるように、何か工夫できたのではないか…
・長時間通勤で疲れてしまう人の負担をどう減らせるか…

働き続けることが難しくなり、離職した人もいます。小野田さんはこれらを「失敗」と呼ばず、「TRY & LEARN(挑戦と学び)」と呼びます。一つひとつの経験を積み重ねることで、次に雇う誰かの困り事を解決する糸口を見つけていったのです。

医療機関との連携

その糸口の1つが、企業でありながら医療機関と連携していることにあります。

例えば、服薬の影響で運転に制限があるスタッフがいた際、小野田さんは自らスタッフの主治医のもとを訪ね、職場の状況を詳しく説明しました。時には服薬に詳しい信頼できる医師と若者を繋ぎ、本人が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を、職場の外側からも整えていきました。

「(同じことを)全ての企業ができるわけじゃない。けれど、企業側からも動くというアクションを起こさないと、何も変わらないですから」 

小野田さんは医療機関に限らず、支援機関や大学の学生支援室とも連携しながら、働きづらさを抱えた方を受け入れ、サポートする新しい形の雇用を実現しています。
あらゆる面からネットワークのように若者を支える体制を作ることで、働く側だけでなく、雇う側が相談できる先も増え、安心して本人をサポートしていくことができるのです。

職場の文化をつくる「雑談」

社長の小野田さんはずっと現場にいるわけではないので、本人が何に困っているか、それを周りにも伝えて理解してもらうことが大事だと言います。
そのために現場で大切にしているのは、ルールやマニュアルではなく「雑談」です。
 
「もっと就業時間中に雑談しようと言っています。雑談も『今日天気悪いね』とかじゃなくて、相手を知るための雑談。例えば、出社してきた子に『今日は体調何%?』って聞くんです」

対戦ゲームのダメージゲージになぞらえて、「今日は50%」といった答えから、その日の体調やメンタルの状態など、相手の中で何が起きているかをフラットに聞き出します。

「会社に来て働くには、私生活も影響してきます。だから、相手を知るための雑談が大事。『私語厳禁』なんてあり得ない。まず本人が安心して働ける環境を、本人も一緒になって作ることが大事なんです。安心感があって初めて、人は本来のパワーを発揮できる。そこに至るまでには最短でも3か月はかかりますね」

雇う側だけでなく、本人からも寄り添ってもらうことが必要だと小野田さんは言います。病名や障がい者手帳の有無を知りたいわけではなく、何に困っているかを周りに分かち合ってほしい。
雇う側の配慮だけでなく、働く側の希望だけでもなく、良い仕事ができる環境を作っていくための自然な関係性が、エーゼットファクトリーでは築かれています。

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株式会社エーゼットファクトリー 代表取締役 小野田直さん

ほんの少しの工夫で、大きな戦力に

他にも、スタッフが働きやすくなるために同社で行われている工夫は、どれも柔軟でシンプルです。
・通勤ラッシュを避けるための出社時間の調整
・バスのダイヤに合わせた出社時間の調整
・通院日を考慮したシフト作成
・話しやすい先輩をランチで隣の席にする工夫
・月一回、食事を通じた個別の対話を全社員それぞれとする

働きづらさを抱えた方にとって、マニュアルの整備は有効な方法の一つとされます。しかし、多くの中小企業には、マニュアルを作るほどの人手はありません。ですが、融通が利く中小企業だからこそできる「ほんの少しの工夫」の積み重ねが、どんな人でも会社の戦力として共に働く仲間へと変えていくのだといいます。

また、多様な背景を持つスタッフを受け入れたことで、職場にも変化が起きました。
スタッフ間で指示を出す際に「奥にある、右から〇番目の、〇色の道具を取ってきて」と、誰にでも伝わる丁寧な説明が定着し、スタッフ全体のコミュニケーションの質が変わったのです。

マニュアルは、仕事のやり方が変わればその都度作り直さなければなりません。しかし、現場で培われたコミュニケーションの文化は残り続けます。それは会社にとって、大切な財産と言えるものかもしれません。

「とりあえず、やってみようよ!」

小野田さんは自社での実践に留まらず、(一社)千葉県中小企業家同友会の「障がい者雇用と多様な働き方を考える委員会」での活動も行っています。その視線は、自社を超えて地域全体、そして同じ企業を経営する仲間たちにも向いています。

教える人がいない…経験がない…そんな「やらない理由」を並べる前に、まずは一歩を踏み出すこと。その重要性を、小野田さんは自らの経験と信念で語ります。
「うちも経験なんてなかった。やってみて初めてそれが経験になる。石橋は叩いて渡るのではなく、飛び越えるんです」

また小野田さんは、「働きたい若者がたくさんいるのに働けていない現状」と「人手が足りない中小企業の現状」をマッチングし、課題を解決する仕組みができないかと考えています。
その構想の一つが、さまざまな企業で見学や体験ができる、「大人のためのキッザニア」のような仕組みです。「働いた経験がない人は何がしたいかがわからない。であれば、様々な企業で見学や体験ができると良いのではないか」と考え、具体的な展開を模索しています。

委員会では、すでに見学や実習ができる企業をまとめたマップも作成されており、小野田さんはその運用をさらに促進していきたいという思いも持っています。
自分たちのような企業が、学校や支援機関などを卒業する若者の受け入れ先となりたい。そのためにも、企業側が一方的にルールを押し付けるのではなく、臨機応変に変化できる企業をどう増やすかが大切だと小野田さんは言います。

「とりあえず、やってみようよ。みんなが関わって一緒に動けば、変化が起きる」

まずは働きづらさを抱えた人への理解を深める働きかけを、これからも続けていこうと考えています。

あなたにまっ直ぐ寄り添う

エーゼットファクトリーには、
「あなたにまっ直ぐ寄り添い『信頼』に答えます!」という経営理念があります。
お客さまに限らず、一緒に働く仲間にもまっ直ぐ寄り添い続ける。その姿勢が、小野田さんの経営者としての在り方を象徴しているように感じられました。

様々な背景を持った方を受け入れるモチベーションが何なのか、小野田さんに尋ねると
「自分は人が好きだから、人を『働き』に導くのが向いているのかもしれない」
という答えが返ってきました。
誰かの目がきらりと輝く瞬間が、何よりも嬉しい。そして、その喜びを他の経営者たちにも「成功体験」として味わってほしい。それが小野田さんの願いです。

「自社もまだ完成や成功ではなく、ブラッシュアップしている過程にある」と小野田さんは言います。
その過程で積み重なる経験は、決して〈失敗〉ではなく、すべてが〈学び〉である。かつて困り事を抱えて入社してきた若者からかけられた言葉がきっかけとなって、そう思えるようになったといいます。

できないことではなく、できることを。
何ができるかを、「できる方法」を考える。
その信念を、若者に対しても、地域の経営者に対しても、そして自社に対しても投げかけ続け、実践し続ける。そんな小野田さんの背中は、地域における新しい雇用の可能性を、力強く示してくれているようでした。

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社名の中にある「AZ」は、「全ての人にA~Z(最初から最後)まで『車』を通じて『自由な移動と豊かな人生』を提供します!」という経営方針から来ています。

「人と人」として向き合う

小野田さんのお話を伺って何より感じたのは、「社長と従業員」という関係性である前に、まず「人と人」として真摯に向き合う姿勢です。

働き方が多様化し、職場における対人関係の距離感が難しい現代。相手を深く知ろうとすることや、少し手を伸ばす気遣いは、時に重く感じられ、つい「事なかれ主義」になってしまうことも多いかもしれません。それは職場に限らず、あらゆるコミュニティにおける共通の課題ではないでしょうか。

しかし、エーゼットファクトリーで実践されていたのは、そこに少しだけエネルギーをかけて向き合う関わり方でした。お互いが働きやすく、生きやすくなるための柔軟な心遣いや工夫。そこには、雇う側だけでなく働く側も歩み寄り、共に変化しながら良い職場を作っていく「双方向のプロセス」がありました。

肩書を背負った関係性や、制度の枠組みの中から生まれる変化もあります。しかし、その手前にある「人と人」としての自然でシンプルな関わり方から、変わっていくものもあるはずです。

小野田さんの「とりあえずやってみる」という軽やかさと、「まっ直ぐ寄り添う」という誠実な姿勢。そこから生まれた実践は、人と人との関係性の在り方を、私たちに改めて問い直してくれます。

(2026年4月10日 株式会社エーゼットファクトリーにてインタビュー)

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株式会社エーゼットファクトリー
https://www.azf.ne.jp/
千葉市若葉区大宮町2122-7

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