【助成レポート】対面と同じオンライン学習システム購入/認定NPO法人外国人の子どものための勉強会

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【助成レポート】対面と同じオンライン学習システム購入/認定NPO法人外国人の子どものための勉強会

2023.10.20
助成レポート

ちばのWA地域づくり基金では、すべての子どもが夢をあきらめずに将来を選択できる社会を実現するために、2014年に「子どもの今と未来を支える基金」を設置し、これまで23団体・総額約700万円の助成を行っています。
新型コロナウイルスの影響や経済活動の停滞に伴い、困難な状況下にいる子ども・若者やその保護者への支援活動を支えるため、2021年度に実施した「子どもの居場所緊急支援第二次助成」(4団体・170万円助成)。助成事業開始から2年が経ちコロナ禍前の環境に戻りつつある今、助成金で購入した機材や設備はどのように活用されてきたのかを振り返りたいと思います。採択事業のひとつ「対面と同じオンライン学習システム購入(団体:認定NPO法人外国人の子どものための勉強会)を、武蔵野大学インターンシップ生の奥田美央さんがレポートしてくれました。

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インタビューの様子(奥から)理事長・海老名みさ子さん、教室スタッフ・梅田敏郎さん、武蔵野大学インターンシップ生・奥田美央さん

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助成レポート:奥田美央(武蔵野大学インターンシップ生)

 認定NPO法人外国人の子どものための勉強会は千葉県松戸市内で活動している、1996年に設立された団体です。
同団体のホームページによると、松戸市では外国籍市民数が年々増加しており、それに伴い日本語を母国語としない子どもが増加しています。こうした子どもたちの中には、言葉の障壁や、文化の違いにより、周囲と円滑なコミュニケーションが行えない、授業を理解できない、就学や就労の情報が得にくいといった問題を抱える子どももいます。このような問題が、地域から子どもを孤立させたり、子どもの学習機会の喪失につながったりすることが危惧されています。そこで日本語を母国語としない子どもへ、日常生活や学習に必要な日本語指導を行い、すべての子どもが均しく学ぶことのできる機会を創出すること、子どもが地域から孤立しないための時間と場所を提供し、安心して暮らすことのできる環境づくりを目指しています。

 同団体の主な取り組みとしては、地域に来た外国にルーツをもつ小学生から中学生の日本語・学習支援です。松戸市内(松戸、新松戸、常盤平)の教室にて、マンツーマンを原則とした定例勉強会や集中勉強会を実施しています。子どもたちの学習をサポートするのはボランティアとして集まっている、子どもが好きな教室スタッフの方々です。
 同団体は勉強会だけではなく、小学生の親子と教室スタッフが親睦を深める「おやこ会」、高校生になった先輩を招いて校風や部活動の話、受験のアドバイスなどを聞きながら交流する「先輩と話そう会」などの交流会も行っています。

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常盤平木曜教室の勉強会の様子

オンライン授業の普及

 2020年に感染が拡大していった新型コロナウイルス感染症。感染拡大に伴い、学校などの教育機関は一時休校となりました。登校できなくなった学生が自宅でも学習を進められるよう、学校の授業形態が対面からオンラインに切り替わりました。

 一般的なオンライン授業の実施方法は、ZOOMなどのビデオ会議システムを使ってオンタイムで授業が行われます。実施場所を選ばないことやオンライン上でお互いの顔を見て話せること、多くの人が同時に講義を聞けることなど、オンライン授業には多くのメリットがあります。しかし場の雰囲気がわかりにくいなどオンライン上でのコミュニケーションが難しかったり、授業が教員の一方的なものになりやすかったりなどデメリットも存在します。

オンライン授業の「見えない」課題

 新型コロナウイルス感染拡大以前、外国人の子どものための勉強会では教室で子どもたちが日本語や算数の勉強や、受験を控えている子どもは作文の書き方や面接の仕方などを学んでいました。教室スタッフは子どもたちの日本語習得度や学年による特徴などを理解して、子どもの隣に座って寄り添った学習サポートを行っていました。

 学校が休校となったことで、同団体も教室を中止せざるを得ない状況になりました。しかしこの状況下でも、中学3年生の子どもたちは高校受験を控えていました。そんな子どもたちのために「教室は休みになっているけれど、オンラインでできることはないだろうか」と考え、対面と同じ環境のオンライン学習システムを導入し始めたと、理事長の海老名みさ子さんは当時の状況を振り返ります。
 教室スタッフが子どもの隣に座って学習をサポートする、マンツーマンでの学習を大切にしている同団体。この団体にとって一般的なオンライン授業の体制での勉強会の実施は、勉強している子どもたちの手元が見えず、教室と同じ環境で学習をサポートできないことが課題となりました。


  ZOOMを使ってオンライン上でつながり、カメラをオンにすれば、お互い顔を見ながらコミュニケーションをとり、学習を進めていくことができます。ただ、それだけでは勉強を教えるにあたって重要な、子どもたちのリアルタイムの学習状況がわかる文字をノートに書きこむ様子が確認できません。ノートに書き込む手元が見えないと、外国にルーツをもつ子どもたちに必要な指導ができなくなってしまいます。
 例えば誤った書き順で漢字を覚えている子どもがいるとします。教室スタッフが隣にすわっている状況であれば、子どもたちの手の動きが見えるので、誤った書き順をすぐに訂正することができます。オンライン上で顔だけを映しているのでは、子どもたちが漢字を書いているところを見られず、誤った書き順を教室スタッフは指導することができません。

「見える」ようになったオンライン学習システム

 子どもたちの文字をノートに書く手元が見られないといった課題を解決するために、「子どもの今と未来を支える基金〈子どもの居場所緊急支援第二次助成〉」の助成金で、対面で実施する勉強会がオンライン上でも同じく行えるよう、書画カメラを導入してオンライン学習システムを整備しました。書画カメラを使って勉強中の子どもの手元を映し出すことで、教室スタッフが子どもたちの学習状況を確認できないという課題を解決しました。

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実際に使用している書画カメラ

 教室スタッフにとって子どもたちの学習の途中経過をリアルタイムで見ることは、指導の上で大変重要です。ZOOMSkypeでカメラをオンにして行う勉強会は「顔が見えるだけで隣に座っている勉強会とは違う」と教室スタッフである梅田俊郎さんはいいます。
梅田さんはデジタル機器の知識や操作に長けている教室スタッフで、今回のオンライン学習システムの体制づくりに大きく関わった方です。オンライン学習でも教室と同じ環境になるよう、書画カメラの導入の提案やオンライン機器の整備など、子どもたちの学習環境を考えた積極的な取り組みをされました。

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オンライン学習システムを使っている様子

 オンライン上では、画面共有を行うことで相手と学習に必要な教材や資料を共有することが可能です。例えば教室スタッフが子どもの苦手な分野に気付き、他の教材を用いて問題に取り組もうとしたとき、すぐにwebサイト上から必要な教材を持ってきて、その教材を画面共有して学習を進めることができます。学習以外の場面でも好きなものや話題のことなど様々な情報をすぐに共有できるので、実際に画面共有を活用して子どもたちと教室スタッフのコミュニケーションの幅を広げられたとのことです。
 オンライン学習システムを利用した子どもたちの様子は、対面とはちがった空気感から、将来の夢などの話の際に「より冷静な、一歩踏み込んだやり取りができた」と梅田さんは感じているそうです。

 現在、同団体ではオンライン学習システムを教材などの「補完」として活用しています。オンライン授業の体制として課題として挙がってくるのは、機器がそろっていても使うには知識や技術が必要なため、誰もが使いこなすことが難しいとのことです。同団体では教室スタッフがオンライン機器を使いこなせるよう、口頭の説明だけではなくオンライン学習のデモンストレーションを繰り返して機器に慣れる機会をつくっていくそうです。また、梅田さんは「ツールがもっと発展すれば、誰もが使えるようになる」と、オンライン学習システムの発展に対して前向きな思いを持っていらっしゃいました。

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オンライン学習システムについてお話しされている梅田さん

築き上げてきた「オンライン体制」をこの先も

 私も高校と大学でオンライン授業を受けたことがありますが、webカメラを利用した授業のみでした。時にはカメラをオフにして受けた授業もあります。
 オンライン授業で問われることはいつも解答のみで、リアルタイムで学習状況を先生に確認してもらう機会があまりありませんでした。そのため、授業を受ける側としては質問事項や疑問点を解消できず、オンライン授業がつらく感じることもありました。このような状況は、お互い見える範囲がwebカメラやオンライン上によって限られてしまうため生じてしまうことだと考えられます。
 同団体はオンライン授業の体制によって見えなくなってしまう部分に気付き、一般的なwebカメラだけの形態に書画カメラという新しい要素を取り入れました。この取り組みが、教室スタッフにとっては子どもたちに寄り添った指導をすることにつながり、学びを得る子どもたちにとっては的確な指導によって得られる学びが生まれ、より良いオンライン学習環境が整ったのではないかと思います。一般的なオンライン授業の在り方にとらわれて、「オンライン授業だから仕方ない、少しやりにくさがあるのは当然だ」と考えていた私にとって、同団体の着眼点と取り組みは驚きでした。

 現在は新型コロナウイルス感染症の感染状況も落ち着いてきて、「感染拡大防止のため」に行われてきたオンライン授業の実施は減少しました。ほとんどの教育機関は授業を対面で実施しています。

  新型コロナウイルス感染症による緊急事態に置かれた中でも、私たち学生の学習機会が失われないよう、教育機関が試行錯誤を重ねてオンラインによる授業体制を築き上げてくださいました。オンライン授業は新型コロナウイルス感染拡大を防止するためにつくられた体制ではありますが、感染状況が落ち着いてきた今、「感染拡大防止のため」ではなく、さらに様々な場所で活用できると私自身は考えています。築き上げてきたオンライン体制を、今後どう生かしていくべきか向き合うことが必要だと思います。

コロナ禍での経験や対応をもう必要ないものと見なすのではなく、今までの方法を見直してこれから先も活用できる手段として発展させていくことは、様々な社会課題の解決にもつながるのではないでしょうか。
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対面と同じオンライン学習システム購入
「子どもの今と未来を支える基金」子どもの居場所緊急支援第二次助成 / 事業実施期間:2021年9月~2022年3月
助成金額:200,000円
実施地域:松戸市
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