テーマ・地域型基金
【助成レポート】花立野広場・山桜と菜の花畑の災害復興整備/市原米沢の森を考える会
地域の人たちに守られ親しまれてきた森
標高の高い山が無い千葉県で、1都10県を見渡せる森があることをご存じでしょうか?
そこは、市原市にある里山「米沢の森」の頂上・標高162mの「御十八夜(おじゅうはっちゃ)」と呼ばれる場所。ここから美しい月が望めることからその名が付いたと伝えられてきました。「御十八夜」からの遊歩道を下ると「花立野(はなたての)ひだまり広場」と呼ばれる広場が広がり、春には山桜と菜の花を楽しめる場所として、秋には収穫祭の会場として、地域の人たちに親しまれています。
ボランティア団体「市原米沢の森を考える会」は、2004年からこの米沢の森の整備保全活動を行ってきました。環境に配慮し歩きやすく整備された御十八夜に続く遊歩道も、ひと休みするのに最適な木製のベンチやテーブルの設置も、十数年に及ぶ同会の地道な活動によるものです。
御十八夜から見える花立野ひだまり広場
台風と豪雨による深刻な被害
しかし、2019年に千葉県を襲った台風と豪雨は、米沢の森にも深刻なダメージを与えました。復旧作業を進めるには土砂崩れや大きな倒木の撤去・伐根など、危険箇所の整備が不可欠ですが、これらの作業を会員のみで行うのは困難です。専門業者への依頼は高額な費用がかかります。さらに、翌年は新型コロナウイルスの影響も加わり、復旧作業は滞ってしまいました。「『復旧・復興には何年もかかる』とがっかりした」と代表の鶴岡清次さんは当時を振り返ります。
当時の様子
立ち入り制限が続く中、それでも団体のもとに届く、広場でのイベントや観察会での利用を望む声。一旦は中止を決めた地元の小学校の遠足も、米沢の森での遠足を楽しみにしている子どもたちのために、規模を縮小するなどの工夫をしながら受け入れましたが、米沢の森の良さを伝えるには十分な状態ではありません。「まずは広場や花畑の危険物を取り除き整備してから安心して楽しめる森を目指そう」と、本助成金を活用して本格的な整備をすることを決めました。
本格的な復旧作業を開始
整備を開始したのは台風災害から2年を迎えようとする2021年7月。まず、団体の会員では手を付けられなかった危険箇所の整備を専門業者に依頼しました。撤去された倒木や折れた枝の数に「台風の破壊力をいまさらながら感じた」と鶴岡さん。これらの専門業者の作業と並行して、鶴岡さんたちは災害ボランティアや地域おこし協力隊と一緒に、焼却や草刈り、遊歩道の整備を繰り返し、目標である花立野ひだまり広場や菜の花畑の復旧を目指しました。
途中、新たな台風の被害もありましたが、10月には約3ヘクタールの花畑への種まきを完了。秋が終わる頃にはイベントが開催できるほどに広場と遊歩道を復旧させました。伸び始めた菜の花の芽を見て、鶴岡さんは「来年の春は、たくさんの人に山桜と菜の花畑を見てもらえる。よみがえった里山に人を迎える準備が整った」と、うれしく思ったそうです。
そして、今年の春。米沢の森に、山桜と菜の花が咲く美しい風景が戻ってきました。
2022年 春の様子
米沢の森を次世代に残すために
しかし、課題はまだ残っています。今回、同会は助成金の活用で専門業者の手を借りながら復旧・復興することができましたが、今後同じような災害が起きた時に支援が得られなかったとしたら…。
同会は里山の整備だけでなく、生物の保護活動や地区の歴史文化の発掘も担ってきました。「整備を進めていく中でわかった地域の歴史や植生・生き物の豊かさ、景観の美しさなど、米沢の森には次の世代に残していきたいものがたくさんある」と鶴岡さん。これらを残していくためには米沢の森全体を維持する必要がありますが、それを同会のみで行うのは困難です。「会の高齢化や資金不足という問題もある。他団体・行政・さまざまの分野の専門家、そして地域の方々と連携して米沢の森を守っていきたい」と鶴岡さんは言います。
市原米沢の森を考える会・代表の鶴岡清次さん
千葉の山間部を訪れると、その自然の豊かさに驚かされますが、実は県内の森林面積は年々減少しています。※1。
県内の里山を毎年のように発生する自然災害から守るために、そして被災した場合は速やかに復旧活動を行うために、ボランティア・市民活動団体への継続的な支援が必要です。
※1 令和2年千葉県森林・林業統計書「Ⅰ森林・林業の動向」P2
2019 千葉県台風・豪雨災害支援基金 第3次「災害復興活動支援助成」
事業実施期間:2021年7月1日~2021年10月31日
市原米沢の森を考える会
任意団体市原米沢の森を考える会(団体ID:1879791513)/団体情報 | CANPAN