実行団体インタビュー 「『部分』の担い手」から「事業全体の担い手」へ―NPO法人キャリアbase 倉持杏子さん

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休眠預金活用事業

実行団体インタビュー 「『部分』の担い手」から「事業全体の担い手」へ―NPO法人キャリアbase 倉持杏子さん

2026.02.18
助成レポート

3年間にわたる休眠預金事業の伴走支援では、事業や組織の変化だけでなく、担い手一人ひとりの変化や成長に立ち会う場面があります。本事業の実行団体であるキャリアbaseの若手スタッフ・倉持さんも、その一人です。インタビューを通して見えてきたのは、倉持さんの「事業に主体的に関わる姿勢」と、それによって育まれていった「事業全体を見渡す視点」でした。
NPOのスタッフの変化や成長は、どのようなきっかけから生まれるのでしょうか。倉持さんのケースを紹介します。(プログラムオフィサー 大村みよ子)

実行団体:NPO法人キャリアbase(柏市)
事業名:通信制高校で就労に困難を抱える生徒のための就労支援事業
事業概要:通信制高校を卒業する生徒の多くが毎年進路未決定のまま卒業しています。複合的な課題を抱え、社会的に孤立するリスクが高い通信制高校生や卒業生を対象に、居場所づくり・キャリア教育・個別就労支援、そして、地域の多様な大人とともに、高校生のキャリアサポートを行う「寄ってたかってキャリア教育」体制の構築を目指します。

「若年就労困難者のための包括的就労支援事業」についてはこちら

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「正直、最初はよく分かっていませんでした。」

そう振り返るのは、NPO法人キャリアbaseの若手スタッフである倉持杏子さん(30)。

休眠預金事業に関わり始めた当初は、アンケートの実施や資料の作成など、具体的なタスクをこなすことで精一杯だったといいます。代表の草場勇介さんや先輩スタッフの企画を「手伝っている」という感覚が強く、ロジックモデル(事業設計図)を見ても、自分に割り当てられた活動がどこにつながっているのかは、よくわからなかったそうです。

 それから約1年半。

現在の倉持さんは本事業のプロジェクトリーダーとして、居場所の運営や各種イベントの企画だけでなく、事業の根幹に関わる作業の取りまとめ的な役割を担っています。

 筆者にとっても事業開始時は「キャリアbaseの末っ子」という印象が強かった倉持さんですが、今は事業を俯瞰的に捉える視点を持った頼りがいのある存在になっています。何が倉持さんにこの変化をもたらしたのか。伴走支援者としてずっと気になっていたことでした。

変化をもたらしたもの——第三者の視点と挑戦の機会

事業に関わる中で、強く印象に残っている出来事として倉持さんが挙げるのが、2024年秋に行われた専門家を交えた事業に関する意見交換の場です。
この時、倉持さんは評価の専門家であり、若者支援の実践者でもある津富宏さん(立教大学特任教授、NPO法人青少年就労支援ネットワーク静岡 顧問)から、自身が企画したフットサルやたこやきパーティーを活用した取り組みについて肯定的なコメントをもらいます。それは、活動の意義や価値を、第三者の視点で言葉にしてもらえた初めての経験でもありました。

「自分の中では“これでいいのかな”という感覚がずっとあったんです。それまで、団体内から“フットサルやたこやきパーティーに時間と予算をかける意味はあるのか”と言われても、“ある!”と自信を持って言えなかった。でも、ちゃんと意味があると言ってもらえて、初めて自信を持てましたし、団体内でも“価値のある活動”と認識してもらえるきっかけになったと思います。」

この経験を境に、倉持さんの中で、この事業に対する距離感が変わっていったといいます。

もう一つの大きな転機は、計画書や報告書などの作成を中心的に取りまとめる役割を任せてもらえたことでした。休眠預金事業では、事業期間中に作成しなければならない書類がたくさんあり、これに負担感を感じる団体も少なくありません。
倉持さんも同様に、最初はお腹が痛くなるほどのプレッシャーを感じていたそうですが、一方で、挑戦の機会をくれた草場さんや先輩スタッフの気持ちに応えたい、という想いもあったといいます。

そこで試したのが「ロジックモデルを手書きでノートに書き出す」ことでした。
活動と結果、成果の一つひとつを書き出し、関係性を自分なりに整理していくと、現場で起きている出来事と、数年後に目指す姿が、少しずつつながって見えてきました。

「ロジックモデルを何度も見返しながら理解を深めていく中で、中間評価の頃(2025年夏)には、事業の全体像を立体的に捉えられるようになったと感じています。“何のための活動なのか”“何を目指しているのか”といった、これまで言語化しづらかったことも言えるようになったり。計画書や報告書を書くのが上手かはわかりませんが、嫌いではないと思えるようになっています。」

いま倉持さんは、「自分自身の“事業に対する腹落ち感”を現場の活動に戻している」そんな手応えを持ちながら、日々の実践に向き合っているそうです。

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「自分がやる」から「任せてみる」へ

これらの経験と気づきは、倉持さん自身のミナトリ―(キャリアbaseにおけるボランティアスタッフの呼称)への接し方や活動への巻き込み方にも良い影響がありました。

「最初は居場所も自分で全部やらないといけないと思っていました。企画のやる・やらないも自分ができるかどうかで判断してしまったり。ミナトリ―に頼ったら負担に思われてしまうかもと心配したり。でも、ふと思ったんです。自分も任せてもらって成長できたんだ、今度は私がそれをする番かなって。あと、“自分がやらなきゃ”って思っていることって本当にそうかな?って。」

ミナトリーに任せることに葛藤がなかったわけではありませんが、実際に関わってもらうなかで、一人では作り出せなかった出会いやストーリーが生まれていくことに気づいた、と倉持さんは振り返ります。その結果、支援の輪が広がっていくスピードは、以前とは比べものにならないほどだと感じているそうです。そして、自分が一歩引くことで生まれた余白は、他のスタッフとのコミュニケーションを深めたり、活動しやすい環境を整えたりすることに使っていきたいと考えるようになったといいます。

ミナトリーに役割を委ね、自分は一歩引いた位置からチームや環境を整えることに注力する。事業全体を見渡す視点を獲得できたからこそ得られた「抱え込まない姿勢」は、限られたリソースのなかで事業を進めていかなければならない、すべての非営利組織に多くの示唆を与えてくれるように思います。

NPOで働くということ

キャリアbaseに所属して4年が経った倉持さんですが、他にもフットサル選手やデザイナーとしての顔も持っています。キャリアbaseでフルタイムで働いたあと、夜、フットサル選手としてのトレーニングや練習に行く日は週34日、土日は試合や遠征に行くことも珍しくないそうです。デザインやイラストの制作は空いた時間を活用しています。これらの活動を成り立たせるために倉持さんが大切にしているのは、「2割の余力を常に残す」というシンプルな考え方。120%で全力疾走し続けるのではなく、自分の中に常に余白を持つことで、長期的に活動を続けられる秘訣を見出しています。

「キャリアbaseに入って1~2年のころは、頑張りすぎてガチガチの状態でした。でも自分ではその状態に気づいておらず、事務局長の福本さんに声をかけてもらったことがきっかけで、少しずつ働き方に対する考え方が変わっていきました。生徒に余白を作りたくても自分に余白がないと作り出すことも、受け止めることもできないし、良い企画やアイデアも浮かびません。心で向き合う現場が多いからこそ、スケジュールに余白を持たせることを意識して段々できるようになっていきました。」

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8歳でサッカーに出会った倉持さん。なでしこリーグを経て、現在はバルドラール浦安ラス・ボニータスに所属しています。(写真提供:バルドラール浦安)

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自宅で創作する倉持さん。「いつかアトリエを持ってみたい」という夢もあります。

「余白」をつくることで良いアイデアも浮かびやすくなり、それぞれの活動にも良い影響があった、と倉持さん。自分のペースや活動の質を重視した過ごし方は、先に述べたミナトリ―への役割の委ね方に通じる姿勢を感じます。

 これまでは団体内最年少スタッフの倉持さんでしたが、今年の春には初めての“後輩”となるスタッフの入職が決まっているそうです。インタビューの最後に、これからNPOで働きたいと考えている人たちにどんな声をかけたいか聞いてみました。

「NPOというと“人のために働く”といった印象が強いと思いますし、それは間違いではないけれど、NPOで働くことによって自分に何を与えたいか・自分はどうなりたいか、は考えたほうがいいと思っています。NPOには、ゼロから何かを生み出す機会も、さまざまな人と関わる機会もあります。

 実際にNPOに入ってみて驚いたのは、「社会には味方や仲間がいる」ということでした。以前、人材系の企業に勤めていた頃は、社外の方とは“お客様”として採用戦略を一緒に考え、取り組む関係でした。けれど、NPOで出会った方々とは、若者をともに支えていく仲間という感覚があり、それがとても新鮮でした。企業に勤めていた頃のお客様が、今はNPOの立場から以前とは少し違う関係性でキャリアbaseの活動を支えてくださっていることにも、心から感謝しています。

 新しく入ったスタッフが壁にぶつかることがあれば、自分たちの団体の外にも助けてくれる人がいるということを伝えられたらと思っています。頼って、吸収して、広い視点を持てるといい。私自身も、いままさにそれに挑戦しているところです。」

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団体の活動を伝える広報紙「みなと通信」。テキスト、イラストともに倉持さんの手描きで作っています。(「みなと通信」はこちらからもご覧になれます。

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インタビューを通してわかったのは、倉持さんの成長は、特別な能力やスキルの獲得によって生まれたものではないということでした。
事業に主体的に関わるなかで、事業との距離感や向き合い方が少しずつ変わっていき、その積み重ねが、「事業の一部分の担い手」から「事業全体の担い手」へと立ち位置を移すことにつながったのではないかと思います。

人が成長するためには、何かができるようになることだけでなく、“何をどう見るのか”という視点の変化もまた、大切なのかもしれません。

 倉持さんの変化は、個人の資質だけによるものではなく、任され、考え、立ち止まり、問い直す機会があったからこそ生まれたものでした。そうした環境や関わり、意識の変化があれば、同じような成長は多くのNPOスタッフにも起こりうる——倉持さんのお話は、その可能性を示しているように感じます。(2026119日 ふらっぽ北柏にてインタビュー)

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