テーマ・地域型基金
【助成レポート】農福連携セミナー/一般社団法人安房ダイバーシティ研究所(安房まちづくり基金)
8月1日、館山市にある千葉県立野鳥の森 多目的ホールで開かれた講演会「農福連携セミナー」に参加してきました。主催は安房まちづくり基金の助成先である一般社団法人安房ダイバーシティ研究所。助成事業「畑から始まる多世代共創ファーム」の一環として企画されたものです。会場には市内外の福祉関係者に加え、就労支援やひきこもり支援に携わる自治体職員の姿もありました。

講演会は、安房ダイバーシティ研究所の室厚美代表理事の挨拶から始まりました。3年前、障がいのある方のための事業を立ち上げようと設立した同法人ですが、その根底には「この地域では多様性がなかなか認められにくい」という実感があったといいます。
「誰もが自分らしく生きていける社会をつくりたい」
空き家だった建物を活かした貸別荘や、その裏にある耕作放棄地の活用(らららファーム)も、その延長線上にある取り組みです。
「いろいろなものを『収穫』して帰っていただければ」という言葉で、セミナーは幕を開けました。

代表の室厚美さん
次は、事業を実施する蔭山さんからの活動紹介。蔭山さんは横浜に住みながら7年間、館山に通い続けてきた方です。「誰も使わない耕作放棄地、誰も取らない果樹園」の存在を知り、落ちて腐っていく夏みかんの皮からナチュラルクリーナーをつくり、収穫されないビワをワインに漬けてリキュールにするなどしています。昨年はサツマイモを丸ごとイノシシに食べられてしまったそうですが、今年は獣害対策を施して生育は順調とのこと。秋には干し芋や石焼き芋のイベントを構想中だといいます。会場の受付では、耕作放棄地で採れた赤しそのシロップで作ったジュースがウェルカムドリンクとして振る舞われていました。
「私は農業サイドでも、福祉サイドでもありません。農園の仕事を切り出す人、仕事を作り出す人だと思っています」。蔭山さんが自らの立ち位置を説明した言葉が印象的でした。

事業担当の蔭山さん
後半は、千葉大学園芸学部の吉田行郷教授による80分の講演です。日本農福連携学会の会長も務め、農林水産省で20年働いたのちに研究の道に進まれた方です。
農福連携という言葉が生まれたのは2010年ごろ。鳥取県庁が「農商工連携」にならって名づけたそうです。以来、取り組み数は8,270にまで増え、国は1万2,000を目標に掲げています。農福連携に対しては、2019年に「農福連携等推進ビジョン」が策定されたのを機に農水・厚労・法務・文科の四省庁による支援が行われていますが、2024年にこれが改訂され、ユニバーサル農園(※)への支援が新たに盛り込まれ、これを四省庁で推進していくこととなりました。この分野の裾野の広さを感じます。
※ユニバーサル農園:障害者のみならず、 生活困窮者、 ひきこもりの状態にある者、 犯罪をした者等の子どもから高齢 者までの世代や障害の有無を超えた多様な者を対象として、 農業体験活動を通じた交流・参画の場を提供す るとともに、 高齢者や障害者等の健康増進や生きがいづくり、 メンタルヘルスの問題を抱える者等の精神的 健康の確保、 働きづらさや生きづらさを感じている者への職業訓練・立ち直りの場の提供など、 農業体験活 動を通じて多様な社会的課題の解決につながる場。(出典:農福連携等推進ビジョン2024改訂版)

吉田行郷教授
現場の知見も蓄積されています。例えば、障がいのある方が働く農園において「300g前後」という指示が苦手な人が多い場合、「300gから350gの間」という指示であれば達成できる人が増える。さらに、測りに目印をつけ「この間に入る重さにする」と指示をすれば、全員が作業できるようになる。50センチ間隔で苗を植えるなら、50センチの棒を渡すなど、ちょっとした工夫で、劇的に仕事ができる人が増えるそうです。
賃金も、時給ではなく出来高払いにすることで農家と働き手の双方に公平になる、という事例は、先日当財団が取材をした一般社団法人ニモアルカモの「ワークルールシフト」を思い出させるものでもありました。
そして千葉県の話です。千葉県は農業産出額が全国4位、人口は6位、首都圏という売り先もすぐそばにある、という好条件が揃っているにもかかわらず、農福連携に取り組む福祉事業所の割合は13%と、全国平均を下回ります。とりわけ千葉市周辺は空白地帯で、その理由は「移動する車がない」というもの。千葉市に限らず、県内全域で大きな機会損失につながっているのではないか。そんなことを考えさせられるエピソードでした。
講演の締めくくりは、認知症のある方が通える農園の話でした。認知症の最初の診断から介護が必要になるまでの数年間は「空白期間」と呼ばれ、社会的な孤立が進みやすいといわれています。静岡県伊東市にあるNPO法人では、この時期に該当する軽度認知症の人たちが週に一度畑に集まるプロジェクトが動いているそうです。
質疑応答では、支援者が不足するなかでどう農福連携を導入すればよいか、販路をどう広げるか、ひきこもりの方にまず農地へ足を運んでもらうにはどうすればよいか、といった質問が出されました。吉田教授の答えに共通していたのは、「スモールステップ」という考え方です。いきなり外に出るのではなく、まずは施設内での農作業から始めてみる。最初から商品のブランド化を目指すのではなく、できる範囲で提供するところから始める。一足飛びに理想像を目指すのではなく、いまの体制で踏み出せる一歩を探す——国内外の現場を歩いて見てきた方だからこその助言だと感じました。
講演終了後には、希望者で安房ダイバーシティ研究所が運営する「らららファーム」を見学しました。広大な耕作放棄地の活用に向けて整備が進む畑で、シロップのもとになった赤しそ、土嚢を使って栽培されるサツマイモ、クリーナーの原料となる夏みかんを実際に見ることができました。9月からは、若者が立ち上げるハーブ園のプロジェクトも始まるそうです。



この日は、農福連携をキーワードに、都市から通う人、福祉の現場の人、自治体職員、農家、障がいのある人、学生、コミュニティ財団など、ふだん交わることのない人たちが同じ部屋に集まりました。このことも、「畑から始まる多世代共創ファーム」事業の成果のひとつのように感じます。
「できないことより、できることに光を当てる」。
蔭山さんは、安房ダイバーシティ研究所が掲げるこの言葉に共感してこの事業を企画したと言います。人手が足りない、空き家が放置されている、行き場がない…地域が抱える「できないこと」のすぐ隣には、まだ光の当たっていない「できること」が眠っているのかもしれません。それは、地域で課題解決に取り組む私たちにとっても希望となる考え方に思えます。
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開催概要
日時:2026年8月1日(土)13:30~15:30
会場:千葉県立野鳥の森 多目的ホール(館山市大神宮553)
参加費:無料
助成:ちばのWA地域づくり基金(安房まちづくり基金2026年度採択事業)
助成事業名:「安房地域の畑から始まる多世代共創ファーム」(一般社団法人安房ダイバーシティ研究所)
