テーマ・地域型基金
【助成レポート】沖ノ島森の再生「学びのプロジェクト」/NPO法人たてやま・海辺の鑑定団
NPO法人たてやま・海辺の鑑定団は、自然環境の保全と活用の仕組みであるエコツーリズムの実現を目指し、2004年に館山市で設立された団体です。身近な環境や生態系について自ら考える人を育てることを基本方針に、館山市沖ノ島を中心に「体験学習」や「自然体験プログラム」を実施しています。
2022年11月28日、同団体の活動拠点である沖ノ島にて、理事長・竹内聖一さんへ「2019 千葉県台風・豪雨災害支援基金 第5次助成」の助成プレートを贈呈させていただきました。
左:NPO法人たてやま・海辺の鑑定団 理事長 竹内聖一さん 右:当財団理事長 牧野昌子
ちばのWA地域づくり基金は、2021年から始まった同団体のプロジェクト「沖ノ島森の再生『学びのプロジェクト』」への助成を通じ、沖ノ島の復旧・環境改善を支援しています。
被災から3年が経った現在の沖ノ島を、竹内さんに案内していただきました。
館山湾の南側に位置する、陸続きの周囲1kmの無人島(陸繋島・りくけいとう)の沖ノ島。
首都圏からそう遠くないにもかかわらず、貴重な自然環境や生態系を有しています。
しかし、2019年の台風では沖ノ島も甚大な被害を受けました。特に島の約30%の木々に影響があった風倒木被害は深刻で、それは、島の景観を大きく変えてしまうほどの被害だったと竹内さんは言います。
島の入り口付近の様子。台風被害の痕がまだ残っています
台風の被害後、竹内さんたちは倒木の原因究明のために、森の専門家であるNPO法人地球守に調査を依頼しました。調査の結果、風倒木の発生は台風だけではなく、沖ノ島自体の乾燥による土中環境の悪化も関係していることがわかったそうです。
土中環境の悪化につながる乾燥の原因は、島内に敷設されたコンクリートの遊歩道や建造物でした。
確かに、島内にはコンクリートの遊歩道や小さな建造物がいくつかありますが、島全体を覆うようなものではなく、環境への負荷は大きくないように見えます。しかし、コンクリートなどの人工物を設置したことで雨が浸み込まなくなり、水や空気などの栄養が土中に届かず乾燥、さらに古い栄養が排出できないまま土中に留まり、長い年月を経て土中環境は徐々に悪化していきました。調査では、土中環境の悪化が島周辺の海にも悪影響を及ぼしていることが判明。同団体は「50年後の森を見据え、これ以上悪くならないように好循環を生みだすことが大切である」と考え、館山市や地球守とともに、島の回復力を引き出すための再生活動「沖ノ島森の再生『学びのプロジェクト』」をスタートさせました。活動への参加者は団体の関係者以外からも広く募り、現在約30名の「うみかんメイト」と呼ばれるボランティアスタッフもこの活動に加わっています。
「学びのプロジェクト」という名称が表す通り、将来的な人材の育成も目指しているこのプロジェクトは、地球守の代表・高田宏臣さんの指導のもと、毎回ワークショップ形式で実施しています。
この日は、ワークショップの成果のひとつとして、コンクリートを除去した場所を竹内さんに見せていただきました。
コンクリート片で作った階段(上)と石垣(下)。きれいに積まれた様子に、竹内さんたちの沖ノ島への愛着を感じます。
上の画像の階段と石垣は、同団体と地球守、そして「うみかんメイト」の皆さんが作ったものです。まず、舗装に使われていたコンクリートを剥がすことから始め、次にその下の土に竹炭や燻炭を混ぜて土壌を改良、そこに適した大きさに砕いたコンクリート片を敷き詰めたり、積み重ねたりしていきます。石垣に積まれたコンクリート片はよく見ると分厚く、作業の大変さが想像できます。この工法を島内の各所に施すことで土に雨水が浸み込むようになり、土中環境が改善されていくのだそうです。
また、島内を歩いていると、倒木や折れ枝・落ち葉で作った小さな山のようなものが随所に見て取れます。この「マウンド」と呼ばれる樹木を育ちやすくするために有機物を挟み込んだ盛り土も、竹内さんたちが作ったものです。島内にあるもの・あったものを活用しながらの再生活動は、ローカルSDGs(地域循環共生圏)を目指す同団体の姿勢の現れのようにも感じます。
「島の環境改善には、島が本来持っている自然の回復力を引き出すことが大切」と、竹内さん。
2019年の台風では、島の神社・宇賀明神のご神木も倒木被害を受けましたが、倒れたご神木の上からは次の世代の木々が育ち始めています。
島の活動にも、地元の高校生など若い世代の参加が増えてきているそうです。
50年後の島や森、周囲の海のために始めた取り組みの成果は、少しずつ、でも、確実に表れています。
海もきれいで緑もある沖ノ島は、一見すると差し迫った課題は無いように見えます。もし、私が観光客として訪れていたら、この日、竹内さんが教えてくれた「土中環境の悪化」や「温暖化による植生の変化」「海中の磯焼け」などの、島内の環境問題に気付くことはなかったでしょう。県内には豊かな自然がたくさん残っていますが、もしかすると、沖ノ島のように気付かれないまま深刻な状況に陥っている場所もたくさんあるのかもしれません。
今回の訪問では、地域の環境を守り、改善し、次世代に残していくためには、地域をよく知るNPOの専門的な知識や技術が必要であるということを知ることができました。海と森、異なる専門性を持つNPOの協働から生まれる成果に、今後も注目していきたいと思います。
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NPO法人たてやま・海辺の鑑定団 竹内さんから 寄付者のみなさまへのメッセージ
今、自然環境は、気候変動や生物多様性の維持など多くの課題に直面しています。その課題は、多くの方々が「自分ごと」として捉え、それぞれ「出来ること」をしていくことが重要です。しかし、そのためのきっかけ作りとなるような、ローカルな環境再生活動を継続していくためには資金が必要です。そして、このような活動からは資金を直接すぐに生み出すことは難しいと感じています。
助成金は、このような活動を継続するためには大変ありがたい仕組みだと思います。ご支援くださいました皆さまには、この場を借りてお礼を申し上げます。
沖ノ島森の再生「学びのプロジェクト」助成実績
2019 千葉県台風・豪雨災害支援基金 第3次助成 / 事業実施期間:2021年7月1日~2022年2月28日
2019 千葉県台風・豪雨災害支援基金 第5次助成 / 事業実施期間:2022年10月1日~2023年3月31日
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